幹太くんの使用による、急激な気密性の低下が起こす断熱性と耐久性への影響

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時短設備としてとても人気の幹太くんですが、高気密高断熱の住宅の場合、幹太くんの使用に当たっては注意が必要です。幹太くんは排気量が多く、その排気量によって、住宅が急激な負圧状態になり、その影響で気密テープ部に圧力がかかって気密テープが緩み、気密性の低下が起こるのではないかと懸念されている側面があります。

そこで今回の投稿では、気密性低下に伴う断熱性や耐久性への影響について、少し情報を整理してご説明いたします。 基本的には、幹太君のすぐ近くに差圧弁を設ける事が望ましいですが、設置しなくても支障ないケースもありますので参考までに。

①幹太くんの排気量について

幹太くんの排気量は、時間あたり240㎥程度と言われています。これは、通常のレンジフードの弱運転と同程度、気密性の高い住宅(例えばC値0.3程度の住宅)の場合、大体40Pa程度の内外圧力差が生まれます。これは、風速に直すと大体8m/s程度となります。 ここで、1年に最大風速が10m/s以上の日がどの程度訪れるのか見てみましょう。最初の図は地域毎に示したものですが、少ない地域だと年数回、多い地域だと年50回以上に及ぶ地域もあります。 ここまでが前提の話になります。

次に急な負圧による気密性低下が断熱性や耐久性に与える影響について見ていきましょう。

②気密性低下が断熱性と耐久性へ与える影響について

正確に言うと、シート気密かボード気密かで、多少気密性低下への影響度が変わってくる可能性はありますが、その違いを科学的に立証する事は困難なので、一旦省略します。

以下、気密性が下がった場合のリスクについてです。 これは、通常時が正圧換気か負圧換気か、また、シート気密かボード気密かでリスク許容度が変わってきます。 長いですが、4パターンについては2枚目の画像にまとめていますので参考までに。

まず、シート気密についての解説です。シート気密の場合は、内外圧力差を生じるのがシート層になります。この内外圧力差が生じる部分がどこかによって、考え方が変わってきます。

◯正圧換気の場合(シート気密)

•シート気密で正圧換気の場合、気密性低下は冬型結露リスクを高めます。冬の湿潤な室内空気が、隙間を縫って気密層を突破し、湿潤状態で壁内にとどまることによって、冬型結露リスクが高まる事になります。 •特に、断熱材に袋なしグラスウールを採用している場合は、結露によって断熱欠損が生じるリスクも高まるので、正圧換気で断熱材にグラスウールを採用されているご家庭は、特に意識して取り組む事を推奨します。

◯負圧換気の場合(シート気密)

•この場合、冬型結露に対しては、壁内に室内の湿潤な空気が入り込む可能性は正圧換気に比べて低いので、気密性が多少低下しても冬型結露が高まるものではないと考えられます。この辺が、負圧と正圧で求められるC値の違いを表しています。

•次に夏型結露リスクについてです。一見すると、夏の湿潤な空気を引っ張ってくるので、夏型結露リスクを高めるようにイメージされるかも知れませんが、これについてもそこまで心配する必要は無いと考えています。

•それは何故か。様々な論文によって、気流により結露リスクが下がることは報告されていますが、これについては、結露が発生するメカニズムを正確に捉えると答えは見えてきます。結露は、冷たい壁面に空気が当たり、露点温度以下に冷やされる時に生じます。

ここで、「露点温度以下に冷やされる」と言う点が重要になります。

空気が壁に当たり、露点温度まで冷やされるためには、一定時間壁に停滞する必要があります。ここで、冬型結露の場合は、内外圧力差が高い気密層を突破した先のボードで空気が停滞するため、結露が起こります。

他方、シート気密において夏型結露リスクが生じる場所は、まさに内外圧力差が生じている部分になります。内外圧力差が生じている部分では、気流により、気密シート部分に到達した空気が、露点温度以下に冷やされる前に室内に入り込みます。

よって、このケースにおいては、夏型結露リスクが高まる可能性は低いと言えます。

それでは、ボード気密の場合はどうか。以下簡単な解説です。

◯正圧換気の場合(ボード気密)

•冬型結露に対しては、結露リスク層で空気が停滞する事なく外に抜けます。

•夏型結露に対しては、湿潤状態の外の空気が室内に侵入しにくいため、こちらの場合もリスクは低いと言えます。

◯ 負圧換気の場合(ボード気密)

•冬型結露に対しては、室内の湿潤な空気が外に排出される事はないですが、室外のからっとした空気が入り込んでくる事により、相殺されます。

•夏型結露に対しては、気密層を内側に設けている場合は、空気の停滞により夏型結露リスクが高まりますが、気密層を内側に設けない、もしくは可変性調湿シートを採用している場合は、あまり気にしなくても問題ないと考えます。

以上より、正圧換気×シート気密の場合は、気密性を特に意識する事が大事です。 こうして考えると、やはりウェルネストホームはすごいですね。この点においても隙がありません。

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